【ケース】11月の社内締切を前に、10月に届いた封筒が見つからない
会社員の佐藤さん(38歳・仮名)は、勤務先から「保険料控除申告書を11月14日までに出してほしい」と案内を受けた。加入する終身保険は平成27年の契約で、年間の払込保険料は9万円ほど。10月上旬に届いたはずの控除証明書は、他の郵便に紛れて行方が分からない。
担当者に相談すると「証明書がないと生命保険料控除は付けられない」と言われた。締切まであと10日。佐藤さんは、再発行が間に合うのか、間に合わなければどうなるのかを調べ始めた。
なぜ起きるのか
年末調整で生命保険料控除を受ける手続は、「給与所得者の保険料控除申告書」を勤務先に提出して行う。提出期限は、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までとされている(出典1)。会社が11月中に社内締切を置くのは、そのあとに給与計算の事務が控えているためだ。
この申告書には添付書類がある。生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受ける場合は、その支払金額を証する書類を1部提出することとされている(出典1)。控除証明書は参考資料ではなく制度上の添付書類にあたる。根拠は所得税法第196条、所得税法施行令第319条、所得税法施行規則第76条である(出典1)。
例外は狭い。旧契約(平成23年12月31日以前に締結した契約)の一般の生命保険料で、一つの契約の保険料が9,000円以下のものだけが、証明書類の添付等を要しないとされている(出典1、出典2)。地震保険料控除は、支払った保険料の額に関係なく証明書類が必要だ(出典2)。金額が小さいから省ける、という扱いは基本的にない。
控除証明書が届くのは通常10月ごろで、社内締切までの1か月ほどで紛失が起きやすい。申告書の記載内容を誤った場合の直し方は、提出後に書き間違いへ気づいたときの流れに整理している。
準備していないと、こうなる
- 社内締切に証明書が間に合わず、生命保険料控除が付かないまま年末調整が行われる。
- 控除が反映されない分、その年の源泉徴収税額は本来より多い状態で確定する。生命保険料控除は一般・介護医療・個人年金の合計で最高12万円まで受けられる(出典3)。
- 12月の給与で精算が終わるため、あとから会社に申し出ても自動では戻らない。自分で確定申告(還付申告)をすることになる。
- 還付申告をしないまま5年が過ぎると、その年分は取り戻せない。還付申告書は、その年の翌年1月1日から5年間提出できるとされている(出典4)。
準備・対処すれば防げる
保険会社に再発行を依頼する
控除証明書を発行するのは保険会社なので、再発行の窓口も契約先の保険会社になる。証券番号と契約者情報を用意し、コールセンターか契約者向けWebサービスから依頼する。実務上の期限は社内締切だが、制度上の期限はその年最後に給与等の支払を受ける日の前日である(出典1)。郵送は日数がかかるので、締切が近いときは次の電子データも検討したい。
電子的控除証明書を使う
平成31年1月以後、保険会社等は控除証明書を電子データ(電子的控除証明書等)で交付できるようになり、交付を受けた人は勤務先や税務署に電子的に提出・送信できる(出典5)。令和2年10月からは、これを一括取得できるマイナポータル連携も始まっている(出典5)。
勤務先が電子データを受け付けていない場合は、国税庁のQRコード付証明書等作成システムで書面に出力して提出・提示する方法がある(出典5)。なお、保険料控除申告書に記載すべき事項を電子データで勤務先に提供するときは、証明書類の提出・提示に代えて、証明書に記載されるべき事項を併せて電子データで提供できる(出典2)。
年末調整に間に合わなければ確定申告で受ける
再発行が締切に間に合わなくても、控除そのものが消えるわけではない。年末調整で漏れた控除は確定申告(還付申告)で受けることができ、還付申告書は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができる(出典4)。年明けに証明書が出てきた場合もここで拾える。さかのぼって取り戻す流れは医療費控除を申告し忘れたときの5年ルールと共通だ。
すでに還付申告をした年分で控除の付け忘れに気づいたときは、更正の請求という手続があり、期間は原則として還付申告書を提出した日から5年以内とされている(出典4)。前の勤務先の書類が届かず年末調整そのものが組めないときの動き方は源泉徴収票が手元に来ないときの順番に、申告後の入金時期の目安は還付金が振り込まれるまでの流れにまとめている。
一覧で比較
| 選択肢 | 向いている状況 | いつまでに | 根拠・窓口 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 保険会社に再発行を依頼 | 社内締切まで日数がある | その年最後の給与支払日の前日まで(社内締切はより早い) | 契約先の保険会社 | 郵送は到着日数が読みにくい |
| 電子的控除証明書を取得 | 締切が近い、勤務先が電子提出に対応 | 同上 | 保険会社、マイナポータル連携 | 書面が要るならQRコード付証明書等作成システムで出力 |
| 確定申告(還付申告) | 年末調整に間に合わなかった | 翌年1月1日から5年間 | 所轄税務署 | 源泉徴収された所得税額がない人は還付されない |
| 更正の請求 | 還付申告の後に控除漏れへ気づいた | 原則、還付申告書の提出日から5年以内 | 所轄税務署 | すでに申告した年分が対象 |
事前にできる準備
- 10月ごろに届く控除証明書は、開封して1か所にまとめておく。旧契約の一般の生命保険料で1契約9,000円以下のものを除き、添付等が必要になる(出典1)。
- 契約先ごとに契約者向けWebサービスの登録とマイナポータル連携の設定を済ませる。電子データなら紛失が起きにくい(出典5)。
- 勤務先の社内締切と、制度上の期限であるその年最後の給与支払日の前日を、別々に把握しておく(出典1)。
出典
- 国税庁「A2-3 給与所得者の保険料控除の申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_05.htm
- 国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/kyuyosyotokusya.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1140「生命保険料控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2030「還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁「控除証明書等の電子的交付について」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei/koujyo.htm
※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の税務相談・税額の判断を行うものではありません。実際の手続きは、お住まいの市区町村の担当窓口、所轄税務署、または税理士にご確認ください。

